特殊車両通行許可とは|基本的な仕組みを解説

「特殊車両通行許可」という許可をご存知でしょうか。この許可は,法律によって道路の通行が制限されている特殊な車両についても特別に通行を許可することを内容とする許可です。法律によって道路の通行が制限されている特殊な車両が道路を通行するためには,特殊車両通行許可を取得しなければなりません。この記事では,まずそもそも特殊車両通行許可とはどのような許可なのかということについて解説を加えていきたいと思います。

道路法による道路の通行制限

道路はどのような車でも通行することができるわけではない

道路といえば,どのような車でも通行することができるように感じるのがふつうかもしれません。道路は公共的なものであって,ある車は通行することができるのにある車は通行することができないというのはなんとなく直感に反するようにも感じられます。

しかし,実は,道路というものはどのような車であっても自由に通行できるというわけではありません。道路を通行することが禁止されている車も存在するのです。

道路を通行することが禁止されている車とはどのようなものでしょうか。

このような車とは,簡単にいえば,車両の大きさや重さが法令の定める一定の基準を超えている特殊な規格の車です。大きすぎたり重すぎたりするような車は,道路を通行することができないのです。

一定の車両については道路を通行することができないこと,そして具体的にどのような車両であれば道路を通行することができるのかという車両の規格を定めている法令は,「道路法」および「車両制限令」という法令です。これらの法令によって道路を通行することができる車両の大きさなどが制限されており,この制限によって,道路法や車両制限令に定める規格を超えない車に限って道路を通行することができるという仕組みがとられているのです。

通行制限の理由

法令によって一定の規格を超える車両は道路を通行することができないという制限が定められているのはいったいなぜだろうかと思われるかもしれません。これは,主に次のような理由からです。

道路は,その設計構造上,設計によって想定された一定の規格の車両に限って安全に通行することができるようにつくられています。逆にいえば,極端に大きかったり重かったりするような車両についてまで安全に通行することができるというようにはつくられていません。このため,このような設計上の規格を超えたあまりにも大きかったり重かったりするような車両が道路を通行することは,設計上想定されておらず,これによって道路の構造を破壊したり円滑な交通状況の維持に支障を及ぼしたりするおそれがあるのです。

このような理由から,大きさや重さなどが法令に定める最高限度を超える車両は,道路を通行することができないこととされているのです。

この制限は,道路法47条2項に規定されています。

特殊な車両であっても道路通行の必要がある

このように,道路法により一定の車両については道路を通行することができないという制限が定められているものの,実際に社会において経済活動が行われるうえでは,法令に定める規格から外れた特殊なサイズの車両であってもなお道路を通行するべき必要が生じることが少なくありません。

たとえば,超高層ビルを建築するためにとても大きな建築資材を運ぶという場合には,そのような資材の大きさ・長さに合わせたとても大きな車両を用意してその車両で資材を運ぶ必要が生じることが考えられます。

超高層ビルの建築資材の運搬という目的は,超高層ビルが社会にとって必要で経済活動を活発にさせる有益なものである以上,正当なものであるといえるでしょう。このような場合にまで,その車両が法令の規格を超えることを理由に車両の道路通行を禁止すれば,超高層ビルの建築は不可能となってしまいます。このことは,社会経済活動上,大きな損失であるということができます。

このように,車両の使用目的や車両に積載する貨物に応じて,やむを得ず道路法の最高限度を超える車両を通行させる必要が生じることも,実務上は少なくありません。

このような必要性にもかかわらず,一律に道路法の最高限度を超える車両の通行を認めず,一切の例外を認めないとすれば,経済活動上の必要に応えることができず,経済活動を過度に萎縮させることにもなりかねません。このことは,決して望ましいこととはいえないでしょう。

特殊車両通行許可制度

許可により特殊な車両も例外的に道路を通行できる

このような必要性に応えるためには,道路について熟知した道路の管理者が,通行しようとする車両の構造や車両に積載する貨物の特殊性について審査を加えたうえで,そのような特殊な車両についても個別に特別に通行を認めるという制度を用意するという解決方法が考えられます。

本来は道路の通行が禁止されている特殊な車両であっても,通行の必要があり,かつ,通行を認めても差し支えないと道路管理者が認める場合であれば,道路を通行することができるとしてもよいといえるのです。

このように,車両の構造や車両に積載する貨物が特殊であるために道路法の制限を超える車両であっても,道路管理者が必要かつ相当と認める場合には特別に道路の通行を許可する制度のことを,「特殊車両通行許可制度」といいます。

また,車両の構造や積載する貨物が特殊であって法令の制限を超過する車両について道路管理者が特別にする許可のことを「特殊車両通行許可」といいます。

特殊車両通行許可がなされるにあたっては,道路を保護するために必要な一定の条件が付されることとされています。

特殊車両通行許可制度は,道路法47条の2第1項に基づく許可制度です。同条により,道路法の原則とする車両の規格制限を超えた特殊車両についても道路を通行することができることとなるのです。

特殊車両の通行許可には一定の条件が付される

特殊車両通行許可において付される道路保護のための一定の条件とは,道路の構造を保全し,または交通の危険が発生することを防止するために必要な条件です。特殊な車両の通行を許可したことによって道路が破壊されたり交通事故などが発生したりしないようにするために,条件が付けられるのです。

この条件には,徐行,連行禁止,誘導車の配置,通行時間の指定などがあります。

たとえば,特に重量が重い車両が高速度で道路を走行すれば道路がその重さに耐えられずに破壊されるおそれがありますが,そのような重い車両であっても徐行などによりゆっくりと走行すれば道路を破壊することなく道路を通行することができるかもしれません。あるいは,車両からはみ出るほどに長いような特に大きな貨物を運んでいる車両が単独で走行すれば近くを走行する他の車などに誤ってぶつかってしまう交通事故を起こすおそれがありますが,前後を誘導する車両とともに走行することでそのような交通事故を防ぐことができるかもしれません。

このようなことから,特殊車両の通行許可をなすにあたっては,一定の条件が付されることとされているのです。

申請による許可

特殊車両の通行許可は申請に基づいてなされる

特殊車両通行許可は,申請に基づいてなされます。特殊な車両によって道路を通行しようとする者は,道路管理者に許可の申請をし,その申請に基づいて道路管理者が許可または不許可の決定をするのです。

この許可の申請にあたっては,車両の諸元,積載物の内容,通行経路,通行の日時等を所定の書類に記入することで,道路管理者が審査をすることができるようにしなければなりません。

道路管理者は,道路法の規格から外れた特殊な車両であっても,この申請によって得た情報に基づいて審査をし,許可要件を満たしていて道路を通行させることが適当であると判断したときは,申請を受けた特殊車両について道路を通行することを許可することができます。

特殊車両の通行許可がなされた場合には,申請者に対して特殊車両通行許可証が交付されます。許可証の交付を受けた者は,許可に基づく道路の通行中には,許可証を車両に備え付けていなければなりません。

申請の窓口

特殊車両の通行許可申請は,原則として,特殊車両を通行させようとする道路の道路管理者に対して行うこととされています。

道路には必ず道路管理者という道路を管理する者が定められています。このため,申請の窓口は特殊な車両が通行しようとする道路の道路管理者だということになります。

協議による一括許可

もっとも,申請において特殊な車両が通行しようとする通行経路が二つ以上の道路管理者の管理する道路にわたる場合には,そのうちの一つの道路管理者の窓口に申請書を提出すればよいこととされています。

二つ以上の道路管理者が管理する道路を通行しようとする場合とは,たとえば,複数の県をまたいで道路を通行しようとする場合などが考えられます。

この場合には,受理した窓口の道路管理者が,経路上の他の道路管理者と協議を行ったうえで,一括してその経路の通行について許可をするか否かの判断をすることができます。

このような協議による一括許可の制度が設けられている趣旨は,申請者が複数の道路管理者に別々に申請する手間を省くとともに,経路の一部について許可され他の部分について不許可とされることによって特殊車両の通行に関する許否の判断が不統一となることを防ぐという点にあります。

このように協議によって許可・不許可の判断を受ける場合には,許可申請に際して協議に関する手数料を支払わなければなりません。

なお,申請する経路が指定市の市道または開発道路以外の市町村道のみである場合には,この協議制度の対象外とされています。

道路管理者による審査とその基準

道路管理者は,申請に基づいて特殊車両の通行に関して必要な審査を行い,許可とするか不許可とするかの決定をします。

道路管理者による審査の基準としては,「特殊車両通行許可限度算定要領」および「道路情報便覧」があります。

「特殊車両通行許可限度算定要領」とは,許可をすることができる車両の幅,重量,高さ,長さ等の限度を道路の構造との関係から通行条件別に簡易に求めることのできる要領のことです。「道路情報便覧」とは,特殊車両通行許可限度算定要領に基づいて個々の道路について現地を調査したうえで,許可の限度となる車両の寸法および重量をまとめた便覧です。

これらによっても審査をすることができないような場合には,別途,道路管理者が個別に審査を行うこととされています。

申請はオンラインにより可能

主要な道路については,審査を迅速化するために審査に関する事務処理が電子化されています。

また,申請についても,申請手続を簡素化するために在宅での申請を可能とするオンライン申請システムが導入されています。

許可の有効期間と必要費用

許可は一車両一経路につき一つ

特殊車両の通行許可は,車両ごと,経路ごとに申請して取得します。

車両ごと,経路ごとというのは,一車両一経路につき一申請となるということです。

車両の規格が似た場合など一定の場合には包括申請という形で申請をすることが可能となりますが,この場合でも各車両の軸種が同じでなければなりません。

申請に対する審査は経路ごとに行われるので,許可を取得しようとする経路それぞれについて,許可を取得できるのかどうか個別に検討を加える必要があります。

許可の有効期間

審査を経た結果,無事に許可を取得できた場合であっても,その許可は無期限に有効とされるわけではありません。

一般的に,許可の有効期間は2年間とされます。このため,2年間の許可期間を超えてさらに同じ経路を通行しようとする場合には,許可の更新を申請し,更新を認められなければなりません。

このように,許可の有効期間は一般的には2年間とされますが,申請時の条件次第ではより短縮されて1年間とされたり,さらに短い期間であったりすることもあります。実際にどの程度の有効期間の許可が取得できるかについては,申請をしなければ分からないということになります。

許可取得に必要な費用

許可の申請を行うにあたっては,審査を受けるための費用が必要となります。

例外はありますが,審査を受けるための費用は,一般的には,一つの経路ごとに200円とされています。

一つの経路とは,出発地から目的地までの片道をいいます。このため,往復で計算した場合には,2経路として計算されることとなります。

また,経路の数に加えて,車両の数ごとにも計算します。

たとえば,一つの同一の経路を3台で往復しようとする場合,往復(2経路)×3台=6経路となり,経路の数は6経路ということになります。審査費用は1経路につき200円とされていることから,6経路であれば1,200円となるということになります。

申請に必要な書類

基本的な必要書類

一般的には,次のような書類が必要となります。

  • 特殊車両通行許可申請書
  • 車両に関する説明書
  • 通行経路表
  • 経路図
  • 自動車検査証の写し
  • 車両内訳書(包括申請の場合)

オンライン申請

現在ではオンライン申請をすることができるようになっており,役所の窓口に出向かなくてもウェブ上で申請をすることができます。

オンライン申請は,必要事項を指示に従って入力していけば申請書が完成するというものです。指示に従って入力すればいいというと一見簡単そうに見えますが,実際には特殊車両通行許可申請に関するさまざまな知識がなければどのように入力してよいか判断が難しい場面も多く,完全にひとりでオンライン申請を行うということは難しいかもしれません。

審査にかかる期間

標準処理期間とは

申請に対して許可または不許可の結果が出されるまでの標準的な期間のことを,標準処理期間といいます。

標準処理期間は特殊車両通行許可の申請に限らず多くの申請手続について定められているもので,ある申請をした場合には原則としてこの標準処理期間の間に許可または不許可という答えを返してくれるという仕組みになっています。

特殊車両通行許可の標準処理期間

特殊車両通行許可の標準処理期間は3週間と定められています。

もっとも,標準処理期間は必ずその期間内に許可・不許可を出さなければならないというものではなく,あくまでも努力目標としての位置づけでしかありません。そして,最近は特殊車両通行許可申請が増えたこともあり,処理を行う行政の窓口がかなり混雑しており,標準処理期間の3週間で許可が出ることはなかなかないと考えてよいという状態になっています。

実際には,結果が出るまでにはおおむね1,2か月程度,長い場合にはそれ以上の期間がかかることもあります。 このため,許可が必要となった場合には少しでも早く申請することが大事だということになります。