司法修習生採用選考における内定留保者に対する面接の概要と再現|主に持病がある方向け【74期・75期以降の司法修習生向け】

司法試験の合格発表後ただちに司法修習生への採用申込みが始まる。ここで不安になるのが、内定留保者に対する面接の存在だ。司法修習生には基本的に書類選考のみで採用内定が出て採用されることとなるのだが、一定の場合には採用内定が留保されて内定留保者として面接が行われる。この面接についての情報が極端に少ないため、面接の対象となるかもしれない人や面接対象者として最高裁に呼び出された人は非常に不安に思うことだろう。私は、73期司法修習生採用選考の際にこの面接を受けることとなり、面接を経て無事採用され、修習を終了している。そこで、司法修習生採用選考における内定留保者に対する面接の概要について再現も交えながら簡単に解説したい。

面接対象者は主に2種類|病歴がある人と犯歴がある人

面接対象者となる人の属性は、基本的に2種類に限られるといってよい。一つが、過去に既往歴を抱えていたり現に持病を有していたりするような病歴がある人、もう一つが、過去に非行歴や犯罪歴などを有している犯歴がある人である。

このうち、病歴がある人については、司法修習に耐えられないような心身の故障がないかどうかを確認するために面接が実施される。

基本的に多いのが、病歴を有することが原因で面接対象者となる人だ。私もこのパターンで面接対象者となった。このことから、以下では病歴を有することが原因で司法修習生採用面接対象者となる人に向けて記事を執筆することとする。

そもそも病歴は素直に申告するべきか?|ぜひ申告するべき

そもそも、過去の病歴や現在の持病というものは、目に見える障害でない限りは、言わなければ分からないものである。たとえ司法修習生採用選考のためといえども自己の病歴や持病について詳しく開示することに強い抵抗がある人も多いはずだ。

本来、自己の病歴や持病について、採用選考のためといえども詳しく開示する必要がないはずであるし、そのような開示を採用側から求めることが決して適切なことではないということは、司法試験に合格する程度に法律を学んだ人であればすぐに思い至るだろう。その意味でも、自己の病歴や持病について最高裁判所に提出する書類に詳しく記載することに抵抗がある人も多いものと思われる。ついつい、病歴や持病について、本当はあるのに何もなく頑健であるとして申告したくなるのではないだろうか。私も、その気持ちは非常によく分かる。

しかし、ここではあえてそのような正しさを横に置いて病歴や持病について正直に申告することをおすすめしたい。

その理由の一つは、修習中に病気についての配慮を求めることがしやすくなるということだ。修習は負担の大きいものであり、持病があったり、あるいはすでに寛解している既往症があったりすると、修習中に体調を崩してしまうことも決してないとはいえないことである。修習中に体調を崩してしまったときに、採用選考時に病歴を隠していれば、司法研修所に対して病気についての配慮を求めづらくなってしまうことは、想像に難くないだろう。

また、病気を理由として司法修習生として採用されないということが事実上ないということも、持病その他の病気を素直に申告するべき理由の一つとなる。そもそも、病気を理由として司法修習生として採用しないということは、心身の故障があって司法修習を完遂するのに耐えない体調であると判断することになる。しかし、そのような理由で採用拒否をすることができるような重い病気というのは相当限られたものになるはずであると個人的には考えている。なぜなら、日本国が批准して現に国内においても効力を有する障害者権利条約に保障された障害者(これはいわゆる「障害者」として障害者手帳の交付を受けた者に限られず、社会参加に一定の妨げを受ける病気を有する者も含まれ得る。障害者権利条約1条参照)の権利として、差別なく職業訓練を受ける権利というものがあり(障害者権利条約24条5項参照)、多少の病気があるという程度で採用拒否をすれば、これに違反するものとなってしまうからである。

以上のように、病気を理由として採用拒否がなされることはほとんどないと見込まれること、修習中に必要な援助を受けやすくなるようにあらかじめ最高裁や司法研修所に病気の実情について伝えておくメリットがあることなどから、司法修習生採用選考の際に提出する書類には自己の病気や病歴については正直に記載することがより良いと言えるだろう。

なにより、虚偽の事実を記載すれば司法修習生として採用しないことがあるなどという怖い文言が書類の中にあるのであり、病気についてもあるのにないと書くというような虚偽の事実を記載するほうがややこしいことになるリスクは大きい。

面接での質問は司法修習生としてやっていけるかを判断するもの|落とすための質問ではない

それでは、いざ面接に呼ばれてしまった場合には、どのような質問がなされるのだろうか。

まずは見るのが早い。再現を以下に記載する。これを見れば、落とすための質問ではないということが分かるはずだ。

司法修習生採用面接の再現

司法修習生採用選考の面接の再現を以下に記述する。正直1年以上前のことであってうろおぼえもいいところではあるが、この分野の情報があまりにも少ないことから、参考までにということでご覧いただければ幸いだ。

以下、再現。

(呼び出された時間に最高裁に赴く。服装は、スーツで臨んだ。門から建物に入構して待機室として指示された部屋で指示された番号の机に座ってしばらく待つ。面接まで20~30分程度の待機時間だったような気がする。待機室の机は意外と多く、10人以上は面接を受ける予定だったのではないかと思われる。私は早めの番号だったため、後から面接を受ける方を多く見かけたわけではない。)

(呼ばれるので、面接室に入室する。)

(面接官は1名。最高裁人事局の人事権限を有する裁判官の方だろうか。特に面接官が名乗るということはないので、これは推測である。)

(以下、面接官の質問のみを記す。)

「それでは、司法修習生採用のための面接を始めます」

「今回の面接では、あなたが司法修習生として司法修習をこなすことができるかどうかを判断するために、提出してもらった書類に記載していただいた病歴についてお尋ねします」

「まず、あなたは現在、提出していただいた書類に記載していただいた通り、……という持病をお持ちで、障害等級は……級だということで間違いないですね」

「この病気を発症して病院にかかるようになったのはいつ頃からですか」

「提出していただいた書類に記載してある通り、この病気のために過去に……回入院されているということで間違いないですね。それぞれいつ頃入院したのか、時期を覚えていれば教えてください」

「この病気の治療のために現在も通院している病院は、提出していただいた診断書を書いてもらったこの……という病院で間違いないですね」

(73期の書類は74期の書類と少しフォーマットが異なり、服薬している薬の名前などを書く欄がなかった。74期の書類のほうが記載する欄が充実しているらしい。このため、服薬している薬を全て記載した診断書を提出するように面接に先立って最高裁から連絡を受け、診断書を書いてもらって提出していた。このため、私の場合は、面接前に服薬の内容と現在の病状について記載した診断書を提出していたということになる。74期以降は、書類のフォーマットが充実したため、そのような診断書を求められるものかは分からない。また、個々人の事情によるところも大きいのではないかと思われる。)

「あなたは……という病気だということですが、具体的にはこの病気で、どのような症状があるのですか」

「この病気のそのような症状に対して、現在どのような治療をなされているのですか」

「現在の通院と投薬治療で、この病気のそのような症状はおさまっているのでしょうか」

「それでは、服薬を続けている限り、もちろん絶対にとは言えないでしょうが、症状が再発することがなく、司法修習を行うことができるということでよろしいですか」

「司法修習中も通院は継続して投薬治療を継続しますね」

「通院の頻度はどれくらいですか」

「通院の配慮のほかに、持病に関して何か必要な配慮はありますか」

「質問は以上です。これで面接を終わります」

(退室。そのまま最高裁を後にする。)

面接での質問は落とすためのものではない|現状を把握するための質問がメイン

以上の再現を見ていただいて、面接の雰囲気がおおまかにつかめたのではないだろうか。ご覧いただいた通り、書類に記載して申告した持病が司法修習を行うにあたってどのような妨げとなるのかを判断するために持病の現状を把握するための質問がメインとなっている。

私の持病の内容はあまりインターネットに公に書くのもどうかと思われるので上記の質問内容から推知していただければと思う。なお、身体障害や発達障害などではない。

安心して面接に臨もう|最高裁も落としたくはないはず

なにより大事なのが、安心して落ち着いて面接に臨むことだろう。最高裁も、せっかく司法試験にまで合格した人を、持病を理由にして不採用としたくはないはずだ(というのは勝手な想像であるが)。

最高裁は、端的に、司法修習生の欠格事由である心身の故障の点に該当しないかどうかだけを判断しようとして面接を実施しているということ、司法修習を行うことができる体調なのであれば不採用にする理由はないということなどを念頭に、そのような司法修習を行うことができる程度の体調であるということが最大限伝わるような受け答えをできるようにしよう。

面接官を安心させられれば、それで合格だ。 この司法修習生採用面接の情報はほとんど見かけることがなかったので、記事にしてみた。ぜひこの情報も参考にしつつ、安心して面接に臨んでいただければ幸いだ。